アパート経営が相続税対策になぜ有効なのか、税金の計算が苦手な人でも分かりやすいように、できるだけ簡略化して解説します。アパート経営には数多くのメリットがありますが、注意点やデメリットも踏まえ、事業として慎重に行う必要があります。土地活用の専門家に相談しつつ、失敗しないアパート経営をスタートしましよう。
■アパート経営が相続税対策に有効な理由
土地にアパートを建てることで、現金よりも相続税が割安に評価され、相続税額を抑えることができます。また、アパートローンなどを利用すれば、借入金がマイナスの資産となり、相続税の対象から除外されます。親世代にまとまった土地や財産があり、子供に相続税が発生する見込みの場合は、親世代がアパートを経営することで、子世代に最小限の課税負担で財産を相続させることができるようになります。
・アパートとマンション、どっちがより有効か
一般的に、比較的小規模の賃貸借用の住居部分をもつ建物を「アパート」と、比較的大規模な建物を「マンション」と呼んでいます。
お持ちの土地が都心で、交通の便が良ければ、多くの入居者が見込めます。その場合は、マンションを建築することで、多額の家賃収入が期待できます。他方、郊外の静かな土地はファミリー層に需要があるため、小規模アパートで借り手に長く住んでもらうスタイルが適しています。
マンションは家賃収入が多く見込める分、建築のためのコストも高額になります。そのため、税金対策を主目的とした土地活用のためには、比較的低コストで建築できる小規模なアパートが適しています。
■現金を相続するよりもアパートを相続する方が税金が安くなるしくみ
相続税は、相続財産を全て現金で受け取る場合に比べて、土地として受け取った場合は20%、建物として受け取った場合は3~40%、税金が安くなります。以下、税金計算が苦手な方にもできるだけ簡単に理解できるよう、ざっくりとしたイメージでご紹介します。難しいと感じたら、黄色い線が引いてあるまとめ部分だけ読んで頂いても構いません。
【相続税計算の基本的な考え方】
(1)土地・建物・現金等、全ての遺産の総額を算出する
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(2)プラスの遺産の総額から、マイナスの遺産である借入金と葬儀費用を差し引く
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(3)基礎控除額を引き、課税される遺産の総額を出す
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(4)相続人の数や属性から相続税額を算出
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(5)相続人各人に適用される控除を考慮しつつ、各人が支払う税額を算出
現実の計算としては、このように相続人の人数や、配偶者かどうかによっても相続額の計算方法は変わってきます。しかし、できるだけイメージとしてご理解頂けるよう、相続人は子1人とし、一番シンプルな計算式でご説明します。
【1】相続人1人が1億円の遺産を全て現金で受け取る場合
親から子一人が遺産全額を相続する場合、基礎控除額を計算します。基礎控除額とは、この金額を下回る場合、遺産があっても相続税を支払わなくても済むという金額のことです。遺産が基礎控除額を上回る場合、遺産総額から基礎控除額を差し引いた残りの額に相続税が発生します。
基礎控除額は、【3,000万円+600万円×法定相続人の数】という計算式で算出できます。
本件では、相続するのが子供1人なので、【3,000万円+600万円×1=3,600万円】が基礎控除額となります。
遺産は1億円なので、【1億円-3,600万円=6,400万円】となり、6,400万円につき相続税が発生します。
相続税の税率は、以下の表のとおりです。
この表によれば、子の相続税額は【6,400万円×30%-700万円=1220万円】となり、1億円の相続財産のうち1割以上を税金としてとられてしまうことになります。
【まとめ】
1億円の現金を子1人が相続すると、相続税額は1220万円。
【2】相続人1人が1億円の土地を受け取る場合
現金ではなく土地として相続した場合も、基礎控除額は変わりません。【1】の数式に従い、【3,000万円+600万円×1=3,600万円】が基礎控除額となります。
他方、1億円の土地の相続額は【路線価方式による評価】と【倍率方式による評価】の二つがあり、自分の土地がどちらの計算方式で算出されるかは、国税庁のホームページで確認することができます。
「路線価図・評価倍率表|国税庁(http://www.rosenka.nta.go.jp/)」
「路線価」の目安は、日本の公的機関が定期的に評価して公表している土地の適正価格である「地価公示価格」の8割の額とされています。つまり、地価公示価格が1億円なら、路線価はだいたい8,000万円程度と言うことになります。
※「倍率方式」とは、簡単に言うと、「税務署が路線価をつけるまでもない地方の土地なので、地元の役所が計算した固定資産税評価額で計算する」という仕組みです。倍率方式の土地が、路線価よりも高くなることはありません。
相続した1億円の土地も、路線価では8,000万円となり、相続税は8,000万円から基礎控除額を差し引いた金額にかけられます。【8,000万円-3,600万円=4,400万円】で、4,400万円が相続税の対象となります。
相続税の速算表により、子の相続税額は【4,400万円×20%-200万円=680万円】となり、1億円を全て現金で相続した場合の半額程度の金額になりました。
【まとめ】
1億円の土地を子1人が相続すると、相続税額は680万円。
そのため、現金で相続するよりも土地として相続した方が相続税額を抑えることができます。
【3】相続人1人が1億円のアパートを受け取る場合
不動産を建物として相続する場合は、建物の固定資産税評価額は建築費の6~7割程度になるため、建物の評価額は実際に建築に要したコストよりも3~4割減となります。おおまかなイメージですので、1億円のアパートが建っていて、固定資産税評価額が建築費の7割程度としてみましょう。
【アパートの固定資産税評価額7,000万円-基礎控除額3,600万円=3,400万円】で、3,400万円が相続税の対象となります。
相続税の速算表により、子の相続税額は【3,400万円×20%-200万円=480万円】となり、さらに相続税をおさえることができました。
【まとめ】
1億円のアパートを子1人が相続すると、相続税額は480万円。
上記の金額は全てイメージであって、正確な金額は相続人の数や、相続人が受けられる控除によっても変わってきます。ご自身のケースに合わせて、より詳しく正確に計算したい場合は、相続税に詳しい税理士に相談された方がよいでしょう。
※「小規模住宅用地の減額の特例」
故人が居住していた土地、または事業に使っていた土地の場合、一定の条件を満たしていれば、評価額を80%または50%まで減額できる制度があります。こうした制度をうまく活用することにより、さらに相続税額をおさえることができ、あるいは、税額をゼロにできるケースがあります。
もっとも、土地の形や面積、用途は人それぞれですので、「小規模住宅用地の減額の特例」の適用を希望する際は、税理士に相談し、確認しておきましょう。
■他にもある、アパート経営の相続税節税効果
・アパートローンが相続税対策になる
相続税を削減する効果としてもう一つ重要なのは、負の遺産(借金)は遺産総額から差し引かれ、相続税計算の際に有利になること。1億円の遺産を相続したとしても、5000万円の負債があれば、負債分を差し引いて5000万円が相続税計算の対象となります。このため、不動産購入時にローンを組むことで相続税を減らす効果があります。
・家賃収入を得られる
アパートは入居者がいれば家賃収入が得られ、定期的かつ継続的な収入が見込めます。なお、相続税は借地権割合や借家権割合に応じた減額も可能で、簡単にいえば、アパートを満室にしておくとそれだけ多くの相続税が減額されます。そのため、節税対策としても可能な限り部屋を満室にできるよう気を配りましょう。
・法人化すればさらに節税できる
アパート経営事業を会社として法人化すれば、アパートが法人の所有となるため、相続税計算の対象外となります。また、マンションの収益を給与や役員報酬と言う形で分配することで、所得税など相続税以外の税金も節税可能です。
■いいことばかりではない、アパート経営の注意点
アパートを建築する際に忘れてはならないのが、アパート経営は事業だということ。きちんと収益性を判断し、利益が上がるように設計や管理に取り組んでいかなくてはなりません。相続税を安くすることばかりに気を取られてしまうと、入居者の利便性や利回りなどに配慮が足りず、空室が出て赤字経営になることも考えられます。
また、アパートを建てる際にローンを借りると、日々借入金を返済しなければなりません。アパートの経営がうまくいっていないと返済が重たくのしかかってくることになります。
もっとも、事業はだれしもがはじめは初心者です。アパート経営のデメリットやリスクを事前に良く踏まえたうえで、アパート経営の専門家にアドバイスなどを聞きながら取り組めば、過度に心配する必要はありません。将来の資産形成のため、先達から積極的に学びとる精神で歩んでいきましょう。
■アパート経営のデメリット・リスク
(1)ターゲッティングミス
設計の段階で、需要が少ない地域で単身者向けのアパートを建築してしまうなど、その土地の需要にあった設計ができていないケースです。事前に地域性を考慮して、アパート経営のコンサルタントと良く相談することでこうしたミスを回避できます。
(2)固定資産税、都市計画税、所得税
不動産を所有していると固定資産税や都市計画税、アパートの場合は家賃収入に基づいて所得税を毎年払わなくてはなりません。
(3)維持管理費用
アパートは供用部分の掃除をしっかり行い、定期的に修繕やメンテナンスを行わなくてはなりません。日頃のこまめな修繕やメンテナンスは建物の寿命を延ばし、安全性を確保すること以外にも、利回りや入居率にもかかわってきます。しっかり清掃や管理が行き届いているアパートはそれだけ印象がよくなり、入居者が入りやすく、また快適に過ごしやすくなります。それに対し、管理が行き届かないアパートは入居者の満足度が下がり、転居などのリスクを高めてしまいます。
小規模なアパートと言っても、オーナーが自主管理するのは思った以上に大変なものです。オーナーに他に職業があってフルタイムで働いている、育児や介護が必要といった場合は、無理をせず管理会社に委託した方が、長い目で見れば利益になるケースも多いでしょう。
(4)ローン支払いの負担
計画段階では無理なく返済できると思っていた金額でも、実際に毎月返済をしていると、負担が重くのしかかってくることがあります。アパートが順調に満室で経営できればよいのですが、景気の変化や天災などで必ずしもうまくいかなくなるケースも。
(5)事情の変化
遊園地や大型ショッピングモールがあったり、駅の乗降客が多いことから繁栄していた地域の場合、商業施設の閉鎖や鉄道の路線の変化により、入居者の需要が変化することがあります。また、大学や大企業が近くにあり、そこに通う学生や単身社会人をターゲットにしていた場合、閉鎖や引っ越しなどであてにしていた需要が見込めなくなることがあります。
(6)売却が難しい
ローン返済に困難を感じたり、やむをえない事情の変化でアパートの売却を望んでも、すぐに買い取り手が付かないケースも。特に、周辺地域の事情の変化で収益性が下がった場合は、地域のニーズに合わないアパートは簡単には売れないかもしれません。売買仲介ではなく、不動産会社に買い取りを頼むと、相場価格よりも割安で手放さざるを得ないケースもあります。
■相続税の申告・納税の期限はいつ?
相続税の申告および納税の期限は、相続開始(遺産を残した人が亡くなったことを知った日)の翌日から10か月以内となっています。親しい人が亡くなると、ただでさえ精神的なショックが大きい上に、葬儀や四十九日、遺品の整理などで慌ただしく時間が過ぎていきます。いざとなってから遺族が混乱しないよう、前もって準備をしておくという意味でも、相続税対策は早めに行っておきましょう。
■まとめ
アパート経営は相続税対策として数多くのメリットがある半面、注意しなければならない点があることも紹介いたしました。しかし、事前に良く計画を練って実行すれば、節税にとどまらないプラスの効果があります。終身雇用制の崩壊、世界情勢の変化など、先行き不安な社会の中で、軌道に乗れば安定して継続的な家賃収入が見込めるアパート経営は、大きな安心材料になります。子や孫の世代に安心を残すという意味でも、アパート経営を始められてはいかがでしょうか。
監修者 : 不動産コンサルタント 井筒 翼
高校卒業後、大手不動産企業で賃貸営業、主任、店長を経て、独立し2014年に北海道札幌市にてASTAGE株式会社を設立。代表取締役就任。現在は札幌市を中心に買取再販、管理、売買仲介、新築企画等を主に仕事をしています!