土地活用の基礎知識「用途地域」とはどんな意味かをわかりやすく解説します。お持ちの土地がどの用途地域に属するかによって、土地活用の方法が変わってきます。「住居系」「商業系」「工場系」それぞれの用途地域について概説した上で、適した土地活用についてもご紹介します。
■簡単解説!用途地域とは
用途地域とは、都市計画法によって定められた、「この土地はこういう用途で使ってほしい」「こんな用途で使ってはダメ」といったルールのことで、13の地域に分かれています。町づくりになんの規制もないと、建物や店、工場などが好き勝手に乱立してしまいます。例えば、小学校の隣に風俗営業店が建ったり、静かに休みたい病人がいる病院の隣に騒々しい工場が建ってしまうかもしれません。
その一方で、工場の隣に倉庫があり、コンサート会場の近くにホテルがあれば、バラバラに離れたところに建てられているより便利で、労働者や利用者にとっても助かります。関連する施設同士が隣接することにより、生活や経済活動が効率的に進むようになり、多くのメリットが発生します。
用途地域を定めることで、「この地域は主に住宅地として使う」「繁華街として使用」「工場用地とする」といった区分けができ、町に住む人たちが気持ちよく、もめごとなく安心して住める町が実現します。
土地活用を行う際は、まず、お持ちの土地がどの用途地域に区分されているかを知り、その用途に合わせた活用法を考える必要があります。
■都市計画法とは
都市計画法は、緑や海、農林水産業などと都市との健全な調和を図りつつ、「健康で文化的な都市生活」や「機能的な都市活動」のために、土地を合理的に利用することを目的としています。
都市計画法においては、日本の土地を、以下の3つに分けています。
・都市計画区域
用途地域を定め、計画的な街づくりをすすめることになっているエリアです。日本国民の約93%が住んでいる地域のため、多くの場合、土地活用をお考えの方の土地は都市計画区域にあります。そのため、土地活用の最初の段階で、お持ちの土地がどの用途地域に分類されているか知ることが重要になります。
・都市計画区域外
日本国民の約7%しか住んでいませんが、山林など緑豊かな日本の風土を支えるエリアです。都市づくりには適さないため、用途地域などの指定はありません。
・準都市計画区域
都市計画区域外のエリアのうち、都市計画区域外ではあるものの、都市のような土地利用をされている地域を指します。準都市計画区域では、無秩序な土地利用を防ぐために用途地域が定められます。
■市街化地域と市街化調整地域とは?簡単に解説
市街化地域と市街化調整地域とは、都市計画区域内にあるエリアのことで、簡単に言うと市街化地域には一定のルールに従った上で家や建物を建てられますが、市街化調整区域には原則として家や建物が建てられません。
・市街化地域
「すでに市街地を形成している区域」および「おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」のことで、用途地域が必ず定められています。一定の要件を満たせば、住宅や施設などを建てることができます。
・市街化調整区域
「市街化を抑制すべき区域」であり、農地や山林などのエリアに指定されます。許可を得た場合を除き、原則として家や建物を建てることができません。市街化調整区域には基本的に用途地域の定めはありません。
土地活用をお考えの土地が市街化調整区域にある場合は、原則として建物が建てられないため、活用法がかなり限られてしまいます。ただ、その場合でも太陽光発電システムなど、建物を建てずにできる土地活用方法や、特別に許可を得て福祉施設などを建てる方法があります。諦めずに、土地活用のプロにご相談下さい。
・非線引き区域
市街化区域と市街化調整区域の線引きがされていない区域も存在します。市街化調整区域のように、建物が建てられないということはありません。用途地域は定めることもできますし、定めないこともできますので、土地活用の際は必ず確認して下さい。
■自分の土地がどの用途地域にあたるか調べる方法
まず、Googleなどの検索エンジンで「市町村名 用途地域」といったフレーズで検索をかけてみましょう。都市部を中心に、多くの地域では、行政がネットで用途地域を見られるよう整備していますので、この方法で簡単に調べることができます。
しかし、地方自治体によっては、ネット上で用途地域がみられるシステムが導入されていないケースもあります。その場合は、地方自治体の役所の窓口に行き、「持っている土地の用途地域が知りたいので、都市計画図を閲覧させてほしい」と聞いてみましょう。計画図の見方が分からない場合でも、多くの場合は職員が教えてくれるはずです。
役所が遠い場合や、職員の対応が不親切だった場合などは、地元の不動産会社に行って聞いても教えてくれます。
お持ちの土地が複数の用途地域にまたがるときは、敷地の半分を超える部分が属する用途地域の制限を受けます。
■用途地域は13種類、大きく3つに分かれる
用途地域は、「住居系」「商業系」「工業系」の3つに大別されます。
「住居系」は主に住宅を建てるための土地で、快適な住環境を維持するため、商業施設や工場などの建設には制限があります。
「商業系」はオフィスビルや大規模商業施設などが建築可能な、賑やかなエリアです。他方、静かな住まいにはあまり向いていないとも言えます。
「工業系」は工場の他、商業施設や倉庫などが建てられます。他方、住環境としては適しにくく、工業系の用途地域の一部では、住居の建築が認められていません。
以下、より詳しく各系統別に見ていきましょう。
■住居系の8種類の用途地域と土地活用法
用途地域の全13種類中、住居系は8種類ともっとも細かく定められています。そのため、住居系の用途地域にある土地に建物を建てる予定の場合は、特に制限に注意する必要があります。8種類の用途地域は、【低層住居専用地域】【中高層住居専用地域】【住居地域】の3種類に大きく分けることができます。
※△:一部のみ可
【参考】国土交通省 都市計画制度の概要
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_city_plan_tk_000043.html
【低層住居専用地域】
・第一種低層住居専用地域
低層住宅(最大12m以下の高さ制限あり)のための地域で、住宅や小規模な店舗兼住宅、小中学校、診療所や寺院などが建築できます。
・第二種低層住居専用地域
第一種低層住居専用地域に建築可能な建物に加えて、150平方メートルまでの比較的小規模な店舗・飲食店なども建てられます。
【中高層住居専用地域】
・第一種中高層住居専用地域
中高層のマンションなどを想定した地域です。高さ制限はなく、住宅や病院、大学が建てられるほか、500平方メートルまでの大きさの店舗・飲食店などが建築できます。
・第二種中高層住居専用地域
第一種中高層住居専用地域に建てられる建物に加えて、1,500平方メートルまでの大きさの店舗の他、オフィスビルなどの必要な利便施設が建てられます。
【住居地域】
・第一種住居地域
主に住宅の環境を守るための地域ですが、高さ制限がなく、住宅や病院、大学などのほか、3,000平方メートルまでの店舗やオフィスビル、事務所、ホテルなども建築できます。
・第二種住居地域
第一種住居地域の建物に加え、カラオケボックスやパチンコ店などといった娯楽施設も建てることができます。
・準住居地域
道路の沿道にある地域で、交通の利便性を生かして小規模な工場、自動車修理工場などが建てられるほか、第二種住居地域で建築可能な建物も認められます。
・田園住居地域
農産物の直売所、農業用倉庫、農家レストランなどいった農業関連施設と、低層住宅の住環境を調和させつつ守っていくための地域です。低層住居専用地域に建築できる建物の他、500平方メートル以内の農業関連施設が建てられます。
住居系地域の土地活用について
住居系の地域は良好な住環境が維持・保全されているため、賃貸アパートやマンション、戸建て賃貸住宅、サービス付き高齢者向け住宅といった住宅用の建物、またマイカー通勤者のための駐車場経営に適しています。他方、店舗や飲食店、オフィスビル、娯楽施設などは、面積の制限や用途の制限がかかることがあるため、注意が必要です。
■商業系の2種類の用途地域と土地活用法
商業系の用途地域は2種類と比較的単純です。また、一部の娯楽施設や工場を除いて制限なく建物が建てられるため、幅広い土地活用が可能な魅力的なエリアです。
※△:一部のみ可
【参考】国土交通省 都市計画制度の概要
https://www.mlit.go.jp/toshi/city_plan/toshi_city_plan_tk_000043.html
・近隣商業地域
近隣の住民が日常の買い物などをするための地域で、住宅や店舗の他、様々な用途の建物や施設を建てることができます。ただし、キャバレーなどや風俗の店、住環境を悪化させるおそれがある工場や、危険性の高い工場などは建てることができません。
・商業地域
近隣商業地域で建てられる施設のほか、風俗営業の店やキャバレー、ナイトクラブなども建てることができます。
商業系地域の土地活用について
商業系地域では、店舗や飲食店、娯楽施設、ホテルやオフィスビルといった多様な用途が考えられます。その他にも、建物の容積率が高く設定されているケースが多いことから、大規模な賃貸アパート・マンション経営にも向いています。オーナーのアイデアや工夫次第で、多様で収益率の高い土地活用を行うことができます。
■工業系の3種類の用途地域と土地活用法
商業系の用途地域は3種類となっており、主に工場や倉庫を建てることを目的とした地域なので、工場エリアに向かない一定の建物は建てることができません。「準工業地域」「工業地域」「工業専用地域」の順に、大きな工場や危険性の高い工場が建てられようになりますが、それ以外の建物に対する規制が厳しくなっていきます。
・準工業地域
主に軽工業の工場や関連施設、倉庫などが立ち並ぶエリアを想定しています。しかし、住宅や店舗をはじめ様々な施設が建築可能で、住環境を悪化させるおそれがある工場や、危険性の高い工場、一部の風俗店以外の建物は制限なく建てることができます。
・工業地域
どのような種類の工場でも建てられる地域です。また、住宅や店舗も建築可能です。しかし、学校や病院などの施設や、ホテル・映画館などは建てられません。
・工業専用地域
工業のための専用エリアです。どんな種類の工場でも建てられますが、それ以外の施設の規制は工業地域よりさらに厳しくなり、住宅、店舗も建てることができません。
工業系地域の土地活用について
準工業用地域にある土地の場合、規制は少ないので、幅広い用途の建物を建てることができます。一方で、工業地域では工場の機能を最優先させるため、住環境としてはあまり住み心地が良くありません。工場関係者の住居用建物などを除き、一般向けの賃貸アパートやマンション建築にはあまり向いていないでしょう。
また、工業専用地域には住宅は建てられません。そのため、工業地域や工業専用地域では、用途どおりに工場や倉庫などを建てて貸し出すなどの土地活用が無難でしょう。工場以外の建物を建てる場合には、騒音やガスなどの影響を考慮しつつ、土地活用されることをおすすめします。
■用途地域の特性を踏まえて収益性の高い土地活用を
土地は動かせないため、どんな地域に属する土地なのかを踏まえたうえで、その土地の特性や、想定される需要にマッチした土地活用方法を考える必要があります。近年はインターネットの地図検索により、詳細な地図や地域写真などが無料で手軽に閲覧できるようになりました。土地活用を始める前に、まずはネット検索でお持ちの土地の周辺を調べ、ベストな土地活用方法を検討されることをお勧めします。
工業地域や市街化調整区域など、一般的な土地活用が難しい地域も存在しますが、アイデアや工夫次第で、そうした地域特性を生かしながらの土地活用も可能です。一人だけで考えるのではなく、土地活用の専門家にも相談して、その土地にピッタリのアイデアを練られることをお勧めします。
監修者 : 不動産コンサルタント 河田 祐希
大学卒業後、大手新聞社に勤める傍ら、不動産を買い進め、2017年独立、株式会社カワマングローバルを設立。代表取締役就任。現在は個人法人合わせ6棟62室、戸建2軒、シェアハウス30床の所有、運営をしております。
宅地建物取引士