サ高住ならば郊外の土地でも収益の高い土地活用が期待できます。その一方で、必要な初期投資額が大きく、また高齢者が入居者であること固有のリスクもあります。サ高住経営の特徴と、メリットとデメリット、経営リスクの回避方法などをご紹介します。
■サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)とは
サービス付き高齢者住宅は、高齢者住まい法の基準を満たしたバリアフリーの賃貸住宅で、サ高住、サ付きなどとも言われます。高齢者が増え続ける日本社会の現状を見据えて、高齢者が安心して暮らせるように見守りや食事などのサービスを備えています。
サ高住は、60歳以上の方、または要介護認定を受けた60歳未満の人を対象にする住まいです。一般的には一人暮らしや夫婦での暮らしで、自立可能、ないしは軽介護の方が、毎日の生活に不安を感じる場合にサ高住への移住を検討されます。
また、一部のサ高住は、厚生労働省の定める「特定施設」の指定を受けています。このサ高住は「介護型」とも呼ばれ、施設内に常にスタッフがいて、介護や生活支援などのケアを受けることができます。
土地活用でサ高住を建てる最大のメリットは、通常の賃貸アパートやマンションと違い、駅から離れた土地や、田舎の土地でも、収益の上がる土地活用ができることです。また、補助金などの優遇制度もあります。郊外に広々とした土地を持ち、土地活用を検討されている方に特におすすめです。
一方で、高齢者が住むことを前提とした賃貸住宅ならではのデメリットも存在します。メリットとデメリットをまとめましたので、注意点を良く理解した上で、失敗しないサ高住経営を行いましょう。
■サ高住と老人ホームはどう違う?
老人ホームは基本的に、介護の必要な高齢者が、家族では対応しきれなくなった場合に入居します。サ高住は一般的には、介護不要若しくは軽介護の高齢者が、自立した生活にサポートをプラスするかたちで入居します。
老人ホームは入居者が介護されることが前提となっているのに対し、サ高住のサービスは入居者が任意で受けます。また、契約としては、老人ホームは高齢者が終身での利用権を取得する、利用権方式が中心となっています。一方、サ高住は賃貸借契約が一般的で、介護などのサービスは別契約になっており、利用者は利用料金の一部を介護保険によって負担することができます。
■サ高住は儲かるの?土地活用にサ高住経営がおすすめの理由
少子高齢化が進み、2025(令和7)年には、日本経済を支えてきた団塊の世代が全て75歳の後期高齢者となります。2025年を過ぎると、実に2200万人、国民の約4分の1が75歳以上となり、介護福祉サービスへの需要が急拡大すると予想されています。
75歳と言っても、団塊世代には自立して生活できる元気な方も多く、また資金力があり、最小限のサポートを受けながら豊かな暮らしをしたいと望まれています。そのため、通常の賃貸住宅と老人ホームの折衷形態であるサ高住の需要はますます高まっていくと予想されています。
他方、人口減少は進み、2018年住民基本台帳人口移動報告によれば、東京と近郊の3県(神奈川、埼玉、千葉)の外国人を除いた転入超過数は23年連続で過去最高となり、東京一極集中が続いています。人口の偏りが進む中、都市部や駅に近い土地など、通勤や通学に便利な人気の土地以外は、賃貸住宅などの需要が減少していくことが考えられます。
その点、通勤・通学の便を考えなくても良いサ高住は、むしろ郊外の自然豊かな土地なども好まれるため、これからの土地活用として将来性が高いのです。
■サ高住の現状と立地
サ高住は、平成23年の制度開始以降、平成29年の12月末時点では約22.5万戸と急速にその数を増やしています。そして、サ高住のうち市街化区域に建てられたものは全体の3分の2、それ以外の区域が3分の1を占めます。
次に、公共交通機関のアクセスをみてみると、駅徒歩圏内が3割を占めるものの、実に全体の約半分が「駅徒歩圏外かつバス利用圏」となっています。
【国土交通省住宅局安心居住推進課「サービス付き高齢者向け住宅の現状と課題」8Pより(http://www.mlit.go.jp/common/001222402.pdf)】
このように、郊外の土地であってもサ高住を経営することは可能ですが、「医療機関へのアクセス」が徒歩圏内のサ高住がほとんどであることには留意する必要があります。転倒や病気など、入居者に何かあったときにすぐかかることができる医者の存在は、入居者にとっても、不要なトラブルを防ぎたいオーナーにとっても頼もしい存在です。
■サ高住はどんなサービスを提供する必要がある?
サ高住において提供が必要なサービスは、「状況把握・生活相談」のサービスと共に、「食事提供」サービスもほぼ必須となっています。先ほどご紹介した「サービス付き高齢者向け住宅の現状と課題」のデータによれば、「状況把握・生活相談」サービスは100%のサ高住で提供され、「食事提供」サービスは約96%となっています。一方で、入浴等の介護サービスは約48%にとどまっています。
【国土交通省住宅局安心居住推進課「サービス付き高齢者向け住宅の現状と課題」8Pより(http://www.mlit.go.jp/common/001222402.pdf)】
一般的に、複数のサービスを提供する場合はそれだけ事業規模が大きくなります。必須となる二つのサービス以外にどのようなサービスを提供するかは、どんな層の高齢者をターゲットとするかを想定しつつ、慎重に設定した方がよいでしょう。
■サ高住を経営する3つの方法
サ高住を経営するには、大きく3つの方式があります。
(1)自分で建物を建てたのち、建物ごと企業に貸し出して企業が経営を行う「一括借上げ(サブリース)方式」
(2)入居者募集・契約やメンテナンスはオーナーが行い、介護サービスを企業に委託する「委託方式」または「テナント方式」
(3)介護スタッフなども全てオーナーが探し出して経営する「自営式」
このうち、(1)のサブリース方式は最も収益率が低いですが、サ高住経営のプロに任せるため安心であること、オーナーが経営しなくて良いので手間がかからないこと、空室があっても収益が確保されることなどから、初心者におすすめです。
他方、(3)の自営式はもっとも高い収益率を上げることができますが、オーナーの経営者としての手腕が必要となり、本格的に事業を営む時間と手間がかかります。
■サ高住で土地活用をするメリット
【1】郊外の土地も活用できる
先述したように、通常の賃貸アパートやマンションを建てた場合には、かならずしも高い収益性が見込めない立地の土地でも、サ高住ならば収益性の高い土地活用を行える可能性があります。
【2】補助金等の優遇制度がある
サ高住は国土交通省の「高齢者等居住安定化推進事業」となっており、新築時には建築費の最大10分の1の補助金を受けることができます。また、所得税・法人税固定資産税、不動産取得税などの税制においても優遇措置を受けられます。加えて、住宅金融支援機構の融資要件が緩和されるなどのメリットもあります。
こうした補助金や優遇措置を受けるためには、都道府県知事の登録を受けなくてはなりません。登録のためには一定の要件を満たす必要があり、「バリアフリー」「原則として各戸床面積25平方メートル以上」「状況把握・生活相談サービスの提供」といった条件があります。
【3】相続税の節税対策
サ高住に限らず賃貸アパートやマンションによる土地活用全般にいえることですが、居住用建物を建てると、相続税の計算時に、建物の固定資産税評価額が時価の70~80%程度になることから、節税が可能です。
大まかに言うと、1億円の建築費用で建物を建てると評価額が7~8,000万円となり、1億円の現金をそのまま持っているよりも相続税が安くなります。
【4】社会的意義のある事業である
少子高齢化社会である日本において、介護・福祉に関する事業は、今後の日本において益々重要視となっていきます。それは単に需要が高いというだけではなく、長年社会を支えてきた高齢者が、適切なサポートを受けながら、豊かに快適に残りの人生を過ごすこと実現する事業です。サ高住の事業は社会的な意義があり、それだけやりがいのある土地活用といえます。
■サ高住経営のデメリット
【1】投資額が大きくなる
サ高住経営は通常の賃貸アパートやマンションよりも初期投資額が大きくなり、億単位の資金が必要となることを踏まえておきましょう。これはなぜかというと、先述した都道府県知事の登録を受けるための条件として、バリアフリーや各戸原則25平方メートル以上と言った条件が細かく定められているからです。これらを満たすための建物を建てると、定員20名程度のサ高住でも投資額は2~3億円にもなります。
【2】敷地の収益効率が低く、広い土地が求められる
住居部分の他にサービス施設や供用部分が必要となるため、延床面積に対する住宅部分は平均で六割程度とも言われています。そのため、少ない戸数では収益が上がりにくく、ある程度のまとまった戸数の建物を建てなくてはなりません。また、高齢者に配慮した建物のため、一般的には平屋建てか低層の建物が多くなり、その分広い土地が必要になります。
【3】建物のクオリティや付加価値を求められる
サ高住を検討する高齢者は基本的には自立しているため、生活の質も重要視します。見た目の良さや暮らし心地の良さも重要になります。学生や単身者向けの、学校や会社から帰って寝るだけの賃貸住宅とは違い、長い時間を過ごす場所としての魅力も求められます。
例えば「海が近く、獲れたての海産物が食事サービスで提供される」「食事を作るスタッフが元一流店のコック」「温泉がある」といったポイントがあれば、それだけ入居者にとって魅力的に映り、競合する他の施設に優越できます。しかし、その分だけ初期投資に必要な額が膨らみます。
【4】よい事業者を選ぶ必要がある
サ高住経営は他の賃貸住宅経営に比べて特に配慮すべき点が多く、自力での経営が難しいため、サブリース方式の契約が無難です。しかし、福祉系の事業者は日本に数多く、その中には評判の良くない企業も混ざっています。最悪の場合、経営がうまくいかずに撤退してしまうケースもあります。事前に慎重に事業者を選ぶことで、こうしたリスクを回避できます。
【5】他の事業に転用できない
サ高住はそれ以外の用途に建物を転用することが困難なため、事業者が撤退した場合は次の事業者を見つけなくてはなりません。その間に収入がないままローンや税金を支払わなくてはならないケースもあります。
■考えられるリスクと回避方法
・入居者同士のトラブル
賃貸住宅にも入居者トラブルは生じますが、高齢者の場合、認知症の発症や、怒りっぽくなる、心が不寛容になるなどの高齢者特有の病や心理状態が関係し、対人トラブルが発生しやすくなります。
・空室リスク
通常の賃貸経営よりも、高齢による病気による入院や、死亡といった空室リスクが高まります。サブリース方式の場合、空室が生じても収益が確保されますが、空室が多く経営状態が悪くなると、賃料が減らされるおそれがあります。
・事故
高齢者は転倒による事故の他、認知症による暴力や徘徊が原因による交通事故などのリスクも増加します。こうした場合、法律問題となって損害賠償責任が生じることがあります。
・リスクを回避するには
リスク回避のためのもっとも有効な手段としては、サ高住経営を委託した業者にまかせっきりにせず、建物を定期的に自ら回り、業者や入居者と日頃からコミュニケーションをとり、状況を把握しておくことがおすすめです。
一般的なサブリース形式では、業者が経営を行ってくれるため、オーナーがかかわらなくとも収益が発生します。しかし、事業をより安定的に進めていくためには、日頃からサ高住の状況を知り、建物の様子や入居者の様子に気を配り、「滑りやすい床はないか」「最近認知症が急に進んだ入居者はいないか」など、小さなトラブルが大きな事件・事故に発展しないように、あらかじめ把握し、摘める芽は摘んでおくと安心です。
サ高住を現在住んでいる土地から離れた場所に建てる場合は、しょっちゅう様子を見に行くことは難しくなります。その場合は、特に事前によく調査して、信頼のおける事業者に建物を貸すことが重要となります。
介護福祉事業への需要は高まる一方ですが、反面介護スタッフの人手不足が深刻化しています。事業者の手腕に問題があり、良いスタッフや介護サービスの質が確保できていない事業者に任せてしまうと、立地や建物には問題がなくとも、入居者が離れてしまい、経営が立ちゆかなくなることがあります。また、事業開始後もまめに事業者と連絡を取って情報を収集しておきましょう。
■サ高住の損害賠償責任保険
サ高住で入居者から損害賠償される事態に備えて、あらかじめ賠償責任保険に加入しておくこともできます。保険には、食事サービスに関するトラブルの損害賠償を保証する「生物賠償責任保険」や、訪問看護、介護に関するトラブルの損害賠償を保証する「居宅介護事業者賠償責任保険」などがあります。通常の賃貸住宅経営よりもリスクがあるサ高住経営の心強い味方として、加入を検討されることをお勧めします。
監修者 : 不動産コンサルタント 井筒 翼
高校卒業後、大手不動産企業で賃貸営業、主任、店長を経て、独立し2014年に北海道札幌市にてASTAGE株式会社を設立。代表取締役就任。現在は札幌市を中心に買取再販、管理、売買仲介、新築企画等を主に仕事をしています!