賃貸併用住宅は、家賃収入を見込める賃貸住宅部分を併設したマイホーム。賃貸併用住宅の6つのメリットと4つのリスクについてまとめました。賃貸併用住宅ならば、住宅ローンの負担を軽減ないしゼロにしつつ、二世帯住宅などにも柔軟に活用できます。注意点を踏まえたうえでオーナー・入居者ともに快適な生活を目指しましょう。
■賃貸併用住宅とは~今、注目されている理由
賃貸併用住宅とは、自宅用の住宅のスペースを1部、人に貸し出せるように設計して作られた建物のことです。条件を満たせば住宅ローンを利用して建てられるうえ、家賃収入が得られるのでローンの支払い負担を軽減できるとして、今、注目されています。
賃貸併用住宅の最大のメリットは、家賃収入でローン支出を賄うことができる、という点があります。特に都会に住む人、比較的広い土地を持っていて資産活用をしたい人にとってはこのメリットは大きく、家賃収入だけですべてのローンを支払い、実質タダで終の棲家を手に入れることができるケースもあります。
もっとも、賃貸併用住宅は人に軒を貸す分、自分好みに自由に建てることができる住宅とは違った配慮が必要になります。たとえ貸す相手が一人であったとしても、事業としての意識を持っておき、オーナーと賃借人がともに満足できる暮らしを試行錯誤しなくてはなりません。メリットとリスクをしっかりと把握したうえで、失敗しない賃貸併用住宅運営を行いましょう。
■賃貸併用住宅の6つのメリット
(1)家賃収入をローン返済に充てられる
賃借人から毎月の賃料を受け取ることにより、毎月のローン返済の負担を軽減できます。
住宅ローンの毎月の返済が20万円であったと仮定すると、3部屋を一部屋7万円の家賃で貸し出せば、家賃収入は21万円。ローンを差し引いても1万円の収入が手元に残ります。
住宅ローンが完済できれば、家賃収入は全額手元に残ることになり、老後に備え、安定的な不労収入を見込むこともできます。
(2)住宅ローンで建てられる
「建物の50%以上を自宅用にする」など一定の条件を満たせば、住宅ローンを利用して、賃貸併用住宅を建てることができます。
土地活用のポピュラーな方法としては、アパート・マンション経営があります。アパート・マンションであれば多くの賃借人に部屋を貸し出すことができ、それだけ高額の家賃収入が見込めます。
しかし、アパートを建てるために借りることになるアパートローンやプロパーローンは、金利2%以上と一般的に高金利です。職業や履歴、持っている資産の状況等によっても金利は異なりますが、通常は融資審査のハードルも高く、簡単には手が出しにくいローンとなっています。また、高額の借金を背負うこと自体に、精神的な負担を感じることも。
しかしその点、住宅ローンは国の政策により、融資のハードルが低く、借りやすいようになっています。金利が0%台など低金利で負担が少なく、住宅ローン減税などの優遇措置も受けられます。そのため、比較的低コスト・低リスクで、精神的な負担が少ない土地活用をしたいという方に向いています。
(3)相続税対策になる
賃貸併用住宅は、100%自分用の住宅を建てるよりも相続税が安くなります。その理由は、賃貸併用住宅の他人に貸している部分は、オーナーといえども自由に使うことができず、建物を利用する権利が一部制限された状態だと評価されるからです。
相続税を計算する際は、相続する資産が高額であると評価されると、相続税も高価になります。100%自由に使える建物と、一部の使用が制約されている建物とでは、利用制限がある建物のほうが資産として価値が低いと評価されます。相続税対策としては、価値を低く見積もってもらえたほうが税金がかからないので、一般的な住宅よりも賃貸併用住宅のほうが相続税が安く済むのです。
(4)固定資産税及び都市計画税が減税となる
200㎡を超える、使わない広い土地を持っていた場合、賃貸併用住宅を建てると、更地のままにしておくよりも大幅に固定資産税及び都市計画税が減税されます。
土地の固定資産税には、「小規模住宅用地の特例」という制度があり、土地の上に住宅を建てた場合、1戸につき200㎡までの部分については、土地の固定資産税評価額の6分の1を課税標準額としてくれます。
逆に言うと、200㎡よりも大きな土地にマイホームを建てた場合、200㎡までしか小規模住宅用地の特例が適用されず、残りの土地は「一般住宅用地」として固定資産税が高くなってしまいます。
ところが、賃貸併用住宅であれば、複数の世帯が同一の建物に住みます。例えば、オーナーのほかに3世帯が住む場合、戸数は併せて4戸となり、「小規模住宅地の特例」は200㎡×4戸の800㎡まで適用されることになります。
賃貸併用住宅の建設により、大きな土地の税金を削減することが可能です。
(5)ライフスタイルに合わせて柔軟に使える
マイホームを、あらかじめ複数世帯が住むような設計にしておけば、家族構成や生活スタイルの変化に対応して柔軟に活用することができます。
一般的には、マイホームは、独立して子供ができたときに建てることが多く、30代~40代くらいの働き盛りの層が買い求めます。しかし、子供たちが独立して出ていき、自分たち用の家を建てると、かつて子供部屋として使用していた部屋は空き室になってしまいます。そのころには家主も壮年~高齢になっており、そのころにメンテナンスやリフォームをして空き室を活用するのも、家に人を入れなくてならず、手間と費用がかかります。多くの場合、子供部屋はそのまま空きっぱなしになっていて、物置のように使われているのではないでしょうか。
また、親世帯と子世帯が同居する場合でも、ある程度成熟した年齢になると、親とは違った生活習慣やスタイルが定着してきます。また、子供が結婚して、親にとっては他人である嫁や婿が生活に入ってくると、習慣の違いから親世代と思わぬ軋轢を生むことがあります。こうしたことから、親も子も、お互いの生活に過度に干渉してほしくないと考えるケースが少なくありません。
将来をあらかじめ考慮し、玄関や風呂、キッチンなどが分かれて存在している賃貸共用住宅として設計しておけば、子供たちが出て行った後の空き部屋をクリーニングしてそのまま他人に貸し出したり、子世代と適切な距離を取りつつ、二世帯住宅を営むことも難しくありません。子供にとっても、ローンを組んでマイホームを建てなくて済むので、経済的な負担が少なく快適な生活を送ることができます。
また、あまり好ましくないケースですが、夫婦仲が悪くなり別居となっても、生活の本拠を変えず、部屋を移動するだけで、お互いに独立した生活を送ることができます。
(6)将来に向けて需要が見込める
近年、住宅ローンの負担を嫌って、マイホームを持たずに人生を送ろうとする人も増加しています。
かつてのように、終身雇用で、いったん会社に就職すれば定年まで安定した収入が見込める社会であれば、マイホームは自分の思い通りに設計でき、住宅ローンを完済すれば自分のものになるため、魅力的な財産でした。
しかし、社会の変化により、一生同じ会社に勤めるのではなく、会社や職業を柔軟に変えて生きていくスタイルも増えてきています。賃貸住宅住まいであれば、収入の増減や勤め先の変更に応じ、簡単に住まいを変えることができます。しかし、一つの土地にマイホームを建ててしまうと、毎月のローン負担が発生し、また簡単に住居を変更するわけにもいかなくなります。こうしたスタイルの人生を選択した人にとっては、マイホームはかえって足かせになってしまいます。
このような層に住宅のスペースを貸し出すことで、賃借人は住宅ローンのストレスを感じることなく生活でき、家主は自分の好みや生活習慣にあった家を建てながら、住宅ローン負担を軽減ないしまったく感じずに生活することができます。賃貸併用住宅は、賃借人・家主双方にとって喜ばしい方式なのです。
また、大都市や観光地など観光客が多い土地では、賃貸住宅としての利用のほかに、民泊としての活用も見込めます。このように、賃貸併用住宅は地域性も考慮しながら、アイデア次第で様々な用途に活用することができます。
■賃貸併用住宅の4つのリスク
(1)通常の住宅よりも建築コストがかかる
賃貸併用住宅の最大のリスクは、一般的な住宅よりも建築コストが高く、その分ローンが高額になり、オーナーに精神的・経済的な負担がかかることです。
賃貸併用住宅の建設に際しては、玄関、トイレ・キッチンなどの水回り、建物の構造によっては階段なども世帯分作る必要があります。アパート建築よりはコストを抑えられ、住宅ローンを利用できるといっても、その借入額は決して敷居の低いものではありません。
賃貸併用住宅は、賃貸人があって初めて利益が得られます。そのため、都心や、賃借人が入居できる見込みが高い駅の近くなど、人気が高い土地のほうが確実に家賃収入を見込めます。しかし、都市部の利便性の良い地域において、土地と建物を両方とも購入すると、7000万~1億円以上の借り入れになることも。
入居者が入れば、家賃収入によりローン返済の負担を軽減ないしゼロに出来るので、ローン負担は過度に心配する必要はありません。しかし、借り入れの際のハードルを考えると、年収がある程度高額の世帯か、もともと賃貸併用住宅に適した土地を持っていたケース、まとまった資産のあるケースなどに向いています。
(2)入居者がいないと家賃収入が発生しない
当然のことですが、入居してくれる人がいないと家賃は得られなくなります。例えば、賃貸併用住宅を親世代と子世代の2世帯住宅に利用してしまうと、家賃収入がその分減ります。しかし、ローン返済はそのまま続けなくてはなりません。
せっかく賃貸併用住宅として建てたのに、賃借人が入居してくれないケースも考えられます。アパートやマンション経営に向いていない、田舎の土地や郊外の土地を持っている場合は、賃貸併用住宅を建てても失敗するリスクのほうが高いでしょう。郊外の土地でも収入を得られる土地活用方法は存在するので、別の手段を検討してみましょう。
都心の人気の高い地域であればあまり心配はいりませんが、例えば大学や大企業、大型ショッピングモールなどが近くにあり、これらの施設の関係者の入居を当てにしていたケースでは、大学や企業、商業施設の移転や閉鎖などにより入居者が入らなくなるリスクが生じます。
また、近年増加している大規模な自然災害や、感染症の流行といった不測の事態により、お住いの地域から人離れがおき、家賃収入がなくなるリスクがあります。
(3)アパート・マンション経営に比べて収益率が低い
賃貸共同住宅のメリットとして、「低金利の住宅ローンが利用できる」というものがありますが、代わりに融資の条件として住宅の50%を超える部分を自宅用住居としなければならないなどの条件が発生します。条件の具体的な内容は金融機関によっても異なりますが、あくまで「自分が住む」ことがメインの建物に、住宅ローンが適用されます。
そのため、「賃貸ルーム用のスペースを広くとって、賃借人をたくさん入れて高額の家賃収入を得る」ということは難しくなります。あくまで住宅ローン負担の軽減、ないしは多少の利益が得られる程度の家賃収入と考えてください。
オーナーにまとまった収入が存在し、都心の駅近など入居者がすぐに入りそうな地域に大きめの土地を持っているといったケースでは、賃貸併用住宅ではなくマンションやアパートを建てたほうが、将来にわたってより多くの安定的な収入を得られます。そのため、ローンが割高になってもアパート・マンション経営を検討したほうが良いかもしれません。
(4)マイホームなのに建築や生活に一定の制約が生じる
賃貸併用住宅を建てるということは、マイホームといっても完全に自分の好きなように家を建てるわけにはいかず、賃借人との生活に配慮した設計にしなくてはなりません。賃借人と家主双方が快適に生活できるよう、建築段階でしっかりと構想を練っておきましょう。
たとえば、多くの賃貸併用住宅では、家主が1階、賃借人が2階に住んでいます。これは、日当たりや眺望がよく防犯上のリスクも低いため人気が高く、家賃を高めに設定しやすいからです。その分、オーナーは1階に住むため、防犯上のリスクなどは家主が負うことになります。
また、騒音や振動、プライバシーへの配慮不足、深夜の出入りなどにより、入居者とオーナーの間にトラブルが生じるリスクがあります。こうした事態を防ぐため、建築段階から防音構造や目隠しなどを考慮して建築を行う必要があります。
監修者 : 不動産コンサルタント 井筒 翼
高校卒業後、大手不動産企業で賃貸営業、主任、店長を経て、独立し2014年に北海道札幌市にてASTAGE株式会社を設立。代表取締役就任。現在は札幌市を中心に買取再販、管理、売買仲介、新築企画等を主に仕事をしています!